まずは訪問看護への先入観を捨てることが必要

 学生として在宅看護を学んだり訪問看護の実習を経験したりすることができたのは、看護学校のカリキュラムに在宅看護論が導入された1997年以降に学生となった人たちです。2019年の時点で考えると、現役生なら今の30代後半にあたる看護師は学んでいることになります。
 介護や社会環境の変遷を考えれば現在のような充実した実習環境ではなかったかもしれませんが、病院でいえば主任クラスの看護師までは学生として訪問看護の現場を見ているわけです。

 「経験を積んだら訪問看護をやってみたい」という声を、在宅看護実習を終えた学生さんからよく聞きます。それは建前でも何でもなく、自宅で療養生活を送る利用者や生活に寄り添う看護師の姿に、理想の看護師像と重ね合わせた何かを感じるからでしょう。

 しかしながら、病院に就職してそこで看護技術を磨き、いつしか先輩看護師となり、病院での働き方や文化に馴染んでしまったとき、残念ながら在宅看護のことは忘れがちになってしまうのでしょう。もちろん場合によっては子育てのために一旦看護職を離れてしまう方もたくさんいますから、学生時代から年を経るにつれて訪問看護とは疎遠になってしまうのが現実なのでしょう。何かしら機会があったり看護師仲間に誘われでもしない限り、訪問看護師として働くきっかけはそうできるものではありません。

 一方で「訪問看護で働くには、一人で何でもできるようなスキルと経験が必要だ」という話もよく聞きます。確かに一人で訪問することのほうが多いですからそれがすべて間違いだとは言いませんが、訪問看護にチャレンジする人は誰しも「初めて」からスタートするのもまた事実です。平均年齢が高いのは事実ですからそう見えてしまうのも理由の一つでしょうが、完璧な看護師しか活躍できない現場などあるわけがありません。

 これが「先入観」です。
 そもそもベテランじゃないと務まらないということはありませんし、大手の事業者は訪問看護に新卒看護師を採用している時代です。これは看護に限らずですが、新しい畑に行けば新しい耕し方がもれなくついてきますので、今まで看護技術を学んできたのと同じく新しい技術や立ち回り方をそこで学べばいいだけの話です。実際に働いてみなければわからないかもしれませんが、現場からみれば「そんなに構えていないで気軽に飛び込んでみてよ」というのが本音です。
 スキル的な心配をするよりも、新しい分野にチャレンジする気持ちを優先したほうが興味も湧きます。「経験を積んだら…」からはじまる先入観を切り捨てることから始めてみてください。

病院とはまた違う!訪問看護で見るべき仕組みやチェックポイント

 訪問看護がどんな仕組みなのか、おおよそ想像はつくと思います。地域包括ケアの一環で病棟で訪問看護師に申し送りをする機会も増えてきていますし、学生時代に実習を経験しているなら尚更でしょう。
ここですべて書くことは不可能ですので、ざっとそのシステムを説明します。

 訪問看護には、保険医療機関が行う訪問看護と、指定を受けた訪問看護ステーションが行う訪問看護があります。後者は医療法人である必要はなく、株式会社など多くの営利企業も参入しています。所定の看護職員数が確保できればあなたでも立ち上げることが可能です。また、理学療法士などのリハビリ職も訪問看護として活躍することができます。
 複雑ですのでここからは簡単に説明しますが、訪問看護には介護保険を利用する場合と医療保険を利用する場合があります。これは疾患やその状態によって分けられます。いずれにしても「医療」ですから主治医の訪問看護指示書というものが必要で、その指示書に基づいて看護師やセラピストが訪問することになります。その結果、訪問時間や回数などの決まりに従って訪問に対しての報酬が発生し、介護報酬や診療報酬、利用者の実費部分で運営費がまかなわれます。

 もしあなたが訪問看護師として働き始めたとしても、看護師としての役割はそう大きく変わるものではありません。診療の補助と療養上の世話です。
 ただし、働く環境は大きく異なります。自宅では病院のような医療設備はありませんし、患者さんが来るのではなくこちらが自宅に訪問するのです。利用者さん一人あたりへの時間の掛け方も全く違いますし、その時間以外はあなたが近くにいることもできません。
 こういったことも含め、訪問看護に就職・転職をするのであれば、病院とは違う部分に気をつけて勤務先を選んでいく必要があります。

 訪問看護ならではのシステムを中心に、就職・転職のポイントになりそうな項目をチェックしていきましょう。

勤務時間・曜日

 特殊な例を除けばいわゆる日勤のみです。勤務曜日も「カレンダー通り」である場合が割合としては多いですが、土日を絡めた訪問を行っているケースもあります。
 自宅に訪問するわけですから、利用者やその家族の生活に即した訪問時間になるわけです。一般的な生活時間と合致することになりますので、自身の生活を考えれば働きやすい時間環境だと言えるでしょう。夜勤のある病棟環境とは大きく異なる部分です。

給与

 病棟勤務と比べれば目減り感はあるかもしれません。病院にしたってもともと全国一律の給与や賞与ではないですから比較することも難しいのですが、常勤でおおよそ年収400万円~450万円程度が平均的な相場でしょう。もちろんそれより低いからといって単純に安いと言い切れるものではありません。
 この目減り感は単純に「夜勤手当があるかないか」が大きく影響しています。夜勤で給与が増えることが嬉しいのか、給与は減っても生活のリズムが安定したほうがいいのか、これは人によって考え方も異なってきますね。

 同じ訪問看護でも、一人あたりの訪問件数によって給与が左右される場合もあります。固定給が安くても件数を抑えてじっくり向き合える看護を理念とする事業所もあると思いますし、訪問件数によって負担が偏らないように、件数でインセンティブを設けてフェアな仕組みを作っているケースもあります。仕組みについては面接時にしっかりと確認しておきましょう。

オンコール

 訪問看護で働く際、もっとも気になることの一つだと思います。そのときに事業所が受けている利用者の病状だったりターミナルをどれだけ受けているかによって、オンコールの対応頻度も変わってきます。
 もともと看取りを中心に多く受けているステーションであれば、どうしても対応の頻度は上がってしまいます。看護師の少ない事業所であれば、スタッフが疲弊してしまうためあえて看取りは受けないスタンスのところもありますし、そもそも24時間対応を行っていない事業所もあります。また、その事業所のケアの仕方によって、オンコール対応の回数を減らせているケースもあります。

 月に何回ほどオンコール当番が回ってくるのか、現場へ出動する頻度はどれくらいか、待機時・出動時の手当はどうなっているのか、いつ頃から電話を持つようになるのか、といった細かい確認をしておいたほうがよいでしょう。月5回ほどと聞いていたのに実際には10回だった、そんなことになると自分の生活に影響が出てくる可能性があります。

自動車運転免許

 住宅密集地や交通網が発達しているような場所であれば自転車や公共交通機関のみで訪問する事業所も多いですが、そこから少し外れれば自動車での訪問は必須です。軽自動車が多く、自分の車のように乗り慣れていないと不安かもしれません。万が一事故を起こした場合の対応や金銭的な面は事前に確認しておきましょう。
 また、中には自家用車(を形式的に借り上げる形)での訪問としている事業所もあります。この場合、業務中の事故でも保険がおりるよう自身の自動車保険契約を業務利用に変更する必要があります。そういった保険料の差額や事故時の修理代、維持費、ガソリン代、手当などの内容はきちんと把握しておきましょう。

直行・直帰

 これも事業所の考え方によっていろいろなパターンがあります。例えば、朝1件目が自宅からみて事業所と逆の場所にある場合、事業所への出勤は非効率なので直行OKなどというケースがありますね。これは事業所の考え方次第ですから、それでも朝は出勤して申し送りを行うという所もあります。どうしているのか面接時に確認すれば、事業所のカラーも見えてくるかもしれません。

拠点の場所と訪問エリア

 一般に職場は自宅から近いに越したことはありません。ただし訪問看護は特定の地域の「自宅」が訪問先ですから、あまりに近すぎることを嫌う方もいるのではないでしょうか。訪問してみたら同級生の実家だった。そんなことがあるかもしれませんね。
 一方で、特に車で回ったりする場合には、ある程度の土地勘があったほうが有利なこともあります。勤務地と訪問エリアは確認しておき、それを良しとするかを判断してください。※実際には近すぎることを気にする方はそう多くはいません。

研修

 初めての訪問看護の場合、この初期研修が充実しているかどうかは大きなポイントです。処置云々よりも、システムがまったく異なるので重要なポイントになります。どの時点までどれだけフォローしてくれるのかをしっかり確認しておいてください。
 初期研修をどれだけ大切にしているかは面接時の話の内容でおおよそわかると思います。そこで不安がある程度解消されれば、それなりに充実した研修体制であると判断できるかもしれません。

担当制?チーム制?

 利用者に担当者を固定して訪問させているのか、チームとして訪問者を固定せずに回しているのかの違いです。リハビリの場合は固定していることがほとんどだと思います。
 それぞれにメリットやデメリットがあります。少なくとも、自分が急遽欠勤してしまった場合にどういった体制を敷いているのか、そこだけは確認しておいたほうがよいでしょう。

精神科訪問の有無

 医療保険を利用した精神科訪問を行っている事業所も増えてきています。自宅で生活しているレベルの方ですので症状も安定していますし、精神科訪問もとてもやりがいを感じられると思います。※臨床経験がなければ各機関による所定の研修を受講する必要があります。
 とはいえ初めてだと不安を感じる看護師もいるでしょうから、精神科訪問も受けている事業所であれば面接時に話をよく聞いてみてください。

ワークライフバランスを考えた就職活動を

 訪問看護に限った話ではありませんが、職場探しは給与の多い少ないだけで判断するべきではありません。
 それぞれの事業所にはその事業所ならではの特性が必ずあります。せっかく新しい職に就くなら決め打ちをせず何ヶ所かの面接に出向き、上記のポイントを中心に詳しく話を聞いてみると良いと思います。「面接=就職」ではありませんから気軽に面接に行ってほしいですし、いくつか受けてみることで自分にあった職場が見つかるはずです。

 個人的には、特に子育てが落ち着いたブランクのある看護師さんにはとても向いていると思います。
 病院のような大きな組織だと数年抜けるだけで変化が著しいですし、なにより日勤(時短も)のみで働けて残業もほぼないという環境はよくフィットするでしょう。一旦医療から離れて地域社会を経験してきたわけですから、訪問先でのコミュニケーションも取りやすいのではないでしょうか。

 近年、ワークライフバランスという単語がこれまで以上にクローズアップされるようになってきました。自分がどう働いて、自分の時間をどう作りたいのかを明確にし、実際に面と向かって話を聞いてみた上で自分に合った勤務先を探し当ててみてください。

この記事を提供しているライター
千葉県内訪問看護ステーションの元管理者。訪問看護を含め地域医療・介護・福祉の魅力を伝えるため、ホウカンジョブを運営している。
看護師 田中 良平
ホウカンジョブ事務局
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