看護師と作業療法士の精神科訪問看護に精神科病棟での経験は必要なのか

 もともと精神科で働いていたかどうかに関わらず、看護師や作業療法士の中には精神科訪問看護で働いてみたいと思っている方もたくさんいらっしゃると思います。しかし、なかなかその中身は見えづらく、自分が本当に活躍できる場なのかどうか不安に感じることもあるでしょう。実際に精神科訪問を積極的に行っていた筆者が、その実情や経験などをお伝えしたいと思います。

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精神科訪問看護の歴史から ~歴史はあってもまだ浅い~

 精神疾患総患者数は右肩上がりに増えています。増加しているということは、当然ながらそこに対応するリソースを増やすことも必要です。従前より精神疾患をもつ方々の社会の受け皿は数多くありました。

 ・医療費の助成や税の軽減、精神障害者保健福祉手帳など制度による受け皿
 ・精神科病院やクリニックなどの医療機関
 ・作業所やデイケア、地域生活支援センターなどの通所施設
 ・保健所や相談支援専門員などの相談窓口
 ・訪問介護(ホームヘルプサービス)や訪問看護など訪問系の支援

 上記以外にもさまざまな社会資源がありますが、精神科医療や社会の変化とともに支援体制が強化されていきました。ただその中でも、精神科訪問看護についてはまだまだ認知度が低いといえます。

 厚生労働省の資料によれば、精神科の訪問看護が診療報酬の対象となったのは1986年* とのことです。ただし基本療養費に紐づくものであったり精神科病院の患者向けであったりが多かったと考えれば、その範囲は限定的であったといえるでしょう。
 一般の訪問看護ステーションが精神科訪問に積極的に取り組むようになったのは、平成24年度の診療報酬改定により「精神科訪問看護基本療養費」が新設されてからです。精神疾患に特化した報酬算定と対象者の拡大、精神科病院等での経験のない看護師や作業療法士でも所定の研修を受講することで算定できるよう明確化されたことで参入しやすくなり、算定要件研修会はどこも早期に満員になるほどの大盛況となっていました。
 とはいえ「職員を研修に出して算定要件を満たしても、実際にはそこまで積極的に参入していない」という訪問看護事業者がとても多いのも事実です。これは、医療者側の抵抗感がまだまだ強くあることや、訪問件数を増やすことでの職員負担増加への懸念が大きな要因だと言えるでしょう。

 精神科訪問看護としての歴史はあるが、サービスとして幅広く提供されるようになったのは平成24年以降であること。参入障壁は取れたとはいえ確立されていないことや問題点も多く、ほかの社会資源と比べれば社会的認知はまだまだ低いサービスだと考えてよいでしょう。
 また患者側からみても、精神科医療とは通院や入院のことであり、看護師や作業療法士が自宅に来るものとすぐにイメージできるようになるにはしばらく時間が必要でしょう。

 1986年*…平成21年 第15回 今後の精神保健医療福祉のあり方等に関する検討会 資料2より

看護師や作業療法士による精神科訪問看護がますます求められている

 冒頭の関連記事の中に細かい数字を記載していますが、統合失調症など一定程度で大きな変化なく患者数が推移している疾患がある一方で、環境要因が大きく影響するストレス障害や気分障害は調査ごとに右肩上がりで増え続けています。全体の患者数が増えているのはこれが要因です。
 これら大幅に増えている「神経症性障害,ストレス関連障害及び身体表現性障害」や「気分[感情]障害」の特性を考えたときに、その多くは「自宅で生活している」ことが想定されます。急性期の入院はあったとしても、割合としては入院患者より通院患者のほうが圧倒的に多いでしょう。自宅で生活しながら定期的に通院し、症状と向き合っている患者層です。
 そうだと仮定すれば、統計的な面だけでも在宅での支援がより一層求められているということになります。

 上記疾患や統合失調症患者の地域での生活や社会参加を考えれば、地域の在宅看護ニーズはたくさんあります。
 自宅への看護師の訪問があるから安心して退院できるということにも繋がりますし、ひきこもりがちになってしまう環境に医療者が介在すれば社会とのつながりも保たれます。服薬を管理する人がいれば安定した生活を送ることができる可能性も高まりますし、身体症状の悪化を防ぐこともできます。エンパワーメントの支援で仕事復帰が早まることもあります。作業療法士の介入で生活技能の拡大を図ることもでき、個別性の高い社会復帰への支援が可能です。

 一方で、前項でも触れたように一般社会での精神科訪問看護の認知は足りていません。もっと活用できれば構造も変わっていくはずなのですが、担い手が増えていかないとそこにつながらないという現実があります。

精神科看護の経験は必要ありません

 担い手を増やさない限り認知されない、ひいては必要な社会資源が活用されないとなれば、それは社会にとっての大きな損失です。その担い手となるための資格を狭めてしまう必要はありませんから、そのために精神科訪問看護算定要件研修会が開催されているのです。
 では、実際にそれで精神科訪問看護が成り立つのかといえば、答えは「YES」です。ケースによってはむしろ、経験のないほうがうまくいったりすることもあります。

 私自身も精神科病棟経験がない看護師で、研修を受けてから精神科の訪問をスタートしました。研修だけで足りることはなく、知識を得るために本当にたくさんのことを勉強する必要があります。理論だけで片付けられる症状ではないですし、薬だって聞いたことのないものばかり。利用者との関わりもそれぞれ個別性が強すぎますし、同じ利用者でも日によって違う顔を見せるため対応の仕方を変える必要があったりします。
 しかし、それがまた楽しかったりもします。

 ペプロウの看護論は看護師なら学生時代に習ったと思いますし、それをベースに看護を行う病院も多いと思いますが、ペプロウの看護論がもっとも分かりやすく当てはまるのは精神科訪問看護だと思っています。お互いに未知の人からスタートし、途中で何度も失敗しながら患者-看護師関係を築いていきます。試されていると感じることも多々あります。問題解決の段階までは時間もかかるはずですし、すべての関係がそこまで至るわけでもありません。でもその過程で、精神科の経験がなければないほど、共にに成長していく関係性を感じることができます。
 精神科に限らず訪問看護はどんなケースでもそうですが、100点の結果を求めるよりもその過程が大切です。患者-看護師という関係であったとしても人間-人間の関わりであることに変わりはなく、医療知識とともにそういった人間的な部分を大切にして取り組んでいけば、経験がなくても質の高い看護に近づいていけるはずです。

 精神科病棟での経験がなく不安なのはよくわかります。しかしやりがいを強く感じられますし、関わりによる変化も観察しやすいですし、精神科対応している訪問看護ステーションは増加していますからチャレンジしてみると良いと思います。募集要項に「精神科訪問あり」と書かれていたら、むしろ新しい世界に飛び込めることに期待を膨らませてみてください。

この記事を提供しているライター
千葉県内訪問看護ステーションの元管理者。訪問看護を含め地域医療・介護・福祉の魅力を伝えるため、ホウカンジョブを運営している。
看護師 田中 良平
ホウカンジョブ事務局
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