訪問看護に救急・急性期経験は必要なのか、経験をもとに考えてみた

 このページをご覧になられている方の中には、「訪問看護師ってどんな仕事だろう」「訪問看護師にトライしてみようかな?」と思っている看護職の方々も多いと思います。
 私自身、訪問看護師を目指したのは、まだ介護保険もなく訪問看護自体が看護界に認知されはじめた頃でした。卒業した看護学校は僻地(とてものどかな田舎です)にあり、実習に参加したときは経管栄養や膀胱留置カテーテルの交換、トラブル対応がメインだった記憶があります。実習生として同行訪問させていただいた時の衝撃として、今でも記憶に残っているのは利用者の方の表情です。「この方の居場所はここなんだな」と思える幸せな表情でした。身体は自由に動かなくても、幸せなんだということが伝わってきました。訪問看護に携わっていた方が二人とも保健師でした。行政との連携をとるスキルがあるから保健師に訪問看護を任せていると仰っていました。「ただ訪問して看護をするだけではない、生活を整える仕事なのだ」と理解し、それが私自身、保健師を取得するきっかけとなりました。
 これから訪問看護を始めようかな?と思っておられる方は「利用者の急な病状変化の時に自分一人で対応できるかしら」という不安が少なからずあるでしょう。ここではそんな不安にお答えします。

救急・急性期経験はいらない?

 「訪問看護師に救急・急性期経験は必須か?」と聞かれれば、私の答えは「NO」です。
 訪問看護にも医療・介護・精神科中心のところもあれば、デイサービスやグループホームと契約して利用者・入所者の一般状態の観察がメインのところもあります。私は医療保険の利用者が6~7割、難病の方が多く、ターミナルも受け入れている訪問看護ステーションに勤務していました。24時間対応の利用者様も多く、医療対応も多いステーションで、たしかに救急要請をすることが月に一度はありました。

 でも、訪問先は自宅です。高度な医療機器もないですし、その場には医師もいません。治療が必要な場合は医師がメインで行う必要があります。
 自宅まで往診してもらい治療を行う場合もありますが、その場合にスキルとして必要なのは「末梢点滴ができる」ということぐらいでしょうか。経管栄養も今はほとんど胃瘻ですし、膀胱留置カテーテルの交換は時々あるくらいです。TPNにて輸液ポンプを使ったり、簡易式人工呼吸器などを使用することもありますが、使用の際には必ず医療機器メーカーの講習がありますので初めて触る器械でも心配はいりません。

では、訪問看護師には何が必要?

 訪問看護師が訪れるのは「利用者の自宅」です。利用者は入院・治療している人ではなく「そこで生活しながら療養している方々」です。「利用者の生活に目を向けられる人、気配りができる人、生活全体を整えてあげられる人」が、訪問看護師に向いている人なのだと思っています。ですから意外な答えに聞こえるかもしれませんが、亜急性期、回復期病棟、地域包括病棟、緩和ケア病棟、老人病院などで勤務経験のある方が、訪問看護に一番向いているのではないかと思っています。
 生活よりも治療が優先される急性期病棟や救急でしか勤務したことのない方は、治療よりも病気をコントロールしながら生活することができているかという視点で訪問に携わってください。

 基本的にケアマネージャー(介護支援専門員)が中心となり、他の介護保険サービスと組み合わせて生活を整えますが、ケアマネージャーにもすごく熱心な方もいれば、訪問看護師に丸投げされる方もいます。そういった場合には、訪問看護師が利用者やご家族とコンタクトをとって要望を聴きつつ、病状や介護状況を合わせてケアマネージャーに報告します。多少、介護保険の知識は勉強しなくてはいけないかもしれませんが、はじめから必要なスキルではないでしょう。普段の状態をしっかりアセスメントでき、異常を察知できれば十分です。
 判断に迷うときは、管理者や同僚、医師に相談することも可能ですから。異常時の対応よりも生活を整えることに重点が置ければ、訪問看護師への入口としては合格といえるでしょう。

経験よりも、生活を支えるという考え方が大切!

 訪問看護は、「その人らしい生活を、その人が望む場所で送れるように看護で支える」ことだと私は思っています。はじめからひとりで訪問することはありませんし、どのステーションも迷った時には相談できる体制が整っています。救急・急性期看護の経験は必要ありません。
 利用者の方々は本当に良い表情をされていますよ。ぜひ、訪問看護の世界に足を踏み入れてみてください。看護職として、自分自身も幸せになれますよ。

この記事を提供しているライター
看護師、保健師、介護支援専門員、養護教諭などの資格を持つ。総合病院で内科・外科・小児科・泌尿器科・亜急性期病棟・緩和ケア病棟などに18年間努めた後、長年の夢を叶えるため訪問看護の世界に飛び込む。
看護師 上村 亜貴
ホウカンジョブ事務局
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