訪問看護において優先される制度は「介護保険」です。しかし疾患など特定の事情においては、逆に医療保険が優先されることがあります。制度が複雑ですのですべて覚える必要はもちろんありませんが、分かりやすく簡単に説明していますのでざっとイメージだけ掴んでおきましょう。

参考:介護保険版はこちら
訪問看護師を目指す方のための、介護保険からみる訪問看護の制度と仕組み

優先されるべきは介護保険

 訪問看護には「介護保険を使っての訪問」「医療保険を使っての訪問」「すべて自費での訪問」と3種類の訪問の仕方があります。正確にいえば、制度のもとに「利用者がどの制度を選択して訪問看護サービスを受けるか」ということになります。

 さて、訪問看護に入ることになりました。利用者負担を考えれば「自費」はさておき、介護保険と医療保険のどちらを利用して訪問するのかという問題があります。ここが訪問看護のわかりにくいところかもしれません。病院なら原則は医療保険で、対象にならない治療は自費という二択ですからね。
 ここにはルールがあって「介護保険が優先される」というのが原則です。もちろん、介護保険の認定が下りている、もしくは要支援・要介護状態として認定される見込みのある状態であればということになりますが、利用者様が「医療保険を使いたい」と言ったとしても介護保険で訪問することが原則なのです。訪問看護は介護保険サービスの居宅サービスとして組み込まれています。医療者の訪問なのに介護保険サービスに組み込まれた経緯は財源の問題などいろいろあるのでしょうが、そういった制度なので「介護が必要だから要介護認定されているんだよね、それなら介護保険を使いましょう」が大原則となっているのです。

 つまり、否が応でも訪問看護と介護保険は切っても切れない関係であると思っておきましょう。

ではどんなときに医療保険での訪問になるのか?

 医療保険で訪問するパターンは、大きく分けて4つだと考えてください。

ケース1:要介護認定がされない場合

 たとえ40歳以上もしくは65歳以上だったとしても、要介護認定を受けていない利用者には介護保険での訪問はできません。したがって医療保険で訪問することになります。極端な話ですが、風邪で体調が悪いから訪問に来てほしいという話になれば、主治医の訪問看護指示書さえあれば医療保険を使って訪問することが可能です。病院受診するのと全く同じで、年齢に応じて1割・2割・3割の自己負担となります。

ケース2:40歳未満の場合

 このケースはそもそも介護保険の対象外です。40歳未満だと、仮に介護保険が適用される「状態」であったとしても、介護保険の対象外ですので医療保険の適用となります。例を挙げると小児の訪問がこれにあたりますが、小児慢性特定疾患や重症心身障害児者の認定を受けていれば、それぞれのルールに応じた助成が受けられます。自己負担なしなど利用者負担が大幅に軽減され訪問看護も利用しやすくなります。
 小児の訪問ができるステーションや看護師がまだまだ不足していますので、チャレンジしてみたい方にとっては社会に貢献できる大きな活躍の場になるでしょう。

ケース3:がん末期や難病の場合(すべてではない)

 簡単にいえば「これって介護じゃないよね。完全に医療の分野でしょ」という疾患を抱えている場合には、たとえ要介護認定がされていても医療保険で訪問しなければなりません。もちろん訪問介護などは介護保険で受けることができます。介護保険が利用できない(医療保険でなければならない)のは、がんの末期や指定難病の一部(パーキンソン病関連疾患、ALS、多系統萎縮症、多発性硬化症など)など、医療度の高いケースになります。具体的には「厚生労働大臣の定める疾病等(別表第七)」というものに含まれる状態の場合に、医療保険で訪問することになります。
 指定難病の場合も医療費の上限額が所得に応じて決まっており、利用者負担が軽減されるよう制度が整っています。

ケース4:精神科訪問の場合

 聞いたことのない看護師もいるかもしれませんが、精神科訪問看護というものも訪問看護のひとつとして存在します。届け出をすることで訪問可能になります。精神科の場合は主治医の訪問看護指示書が別仕様になっており、精神科訪問はすべて医療保険の制度のもとで訪問することになっています。統合失調症やうつ病の訪問が多いです。ちなみに認知症については、たとえ精神科病院からの依頼であっても介護保険での訪問になります。
 こちらも自立支援医療の制度により自己負担が1割になり、かつ自己負担の上限が所得に応じて決まっています。小児と同じく精神科訪問を行っているステーションや看護師がまだまだ少ない状態です。所定の研修(おそらく費用は事業所が出してくれるはずです)を受けることで、精神科経験がなくても訪問できるようになります。

医療保険を使っての訪問看護のルールとは?

 医療保険でも介護保険でも、主治医の訪問看護指示書は必ず必要になります。つまり訪問看護を行うには、必ず主治医からのケアの指示が必要だということです。セラピストも含め訪問看護師が専門職として訪問する前提条件なので覚えておきましょう。

 介護保険では週何日でも訪問することが可能です。では医療保険ではというと、原則は日曜日を起算日として週3日までとなっています。ですからより一層看護師としての「先読み」が必要になってきます。というのは、例えば月・水・金で訪問していて1週間に3日の訪問を終えた後、土曜日に訪問せざるを得ない状況になったらどうしましょう。その週の4日目になりますから医療保険は使えません(厳密にいえば、保険請求できません)よね。だからといって利用者に10割の請求をするのも心苦しい、なんてことになります。週末に起こり得ることを予測して、それを回避できるよう金曜日の訪問時に対処しておく必要がありますね。
 ただし、すべての疾患が「週3日まで」というわけではありません。前述した「厚生労働大臣の定める疾病等」に該当すれば週4日以上の保険請求ができますし、1日複数回訪問した場合の加算もあります。ほかにも例えば、精神科訪問なら退院後3ヶ月間は週5日まで訪問可能などのルールがあります。

 ちなみに、医療保険の場合は1回の訪問時間によって算定するのではなく、1回あたりいくらという計算をします。訪問時間はおおむね30分~90分程度が想定されています。特例としてこれを過ぎる場合や難病等で1日に複数回訪問した場合は加算として算定されます。月の初日と2日目以降では管理療養費というものに大きな差があるので厳密ではありませんが、週3日までで1日に1回訪問で考えると、1日の請求(10割)はおおむね9,000円程度になります。

この記事を提供しているライター
千葉県内訪問看護ステーションの元管理者。訪問看護を含め地域医療・介護・福祉の魅力を伝えるため、ホウカンジョブを運営している。
看護師 田中 良平
ホウカンジョブ事務局
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