精神科訪問看護の役割と実際 ~統合失調症と共に生きる利用者の就労~

 ホウカンジョブ専属ライターの橋元です。精神科訪問看護を専門にしている訪問看護師です。社会にも専門職にもまだまだ認知度の低い精神科訪問看護、統合失調症をもつ利用者様の就労における関わりについての事例をご紹介し、理解を深めていただければと考えております。
 特に精神科において、看護師は利用者にとっての相談者であり、関わりによって自立を十分に支援することができます。そんなお話です。

斎藤さん(利用者/仮名)の生活環境と状況

 50代男性、単独世帯でお住まいの斎藤さん。生活保護を受給されながら、障害年金と併用して生活されています。
 統合失調症の発症後も、30代で大手会社の清掃業務に従事されるなど就職への意欲は高く、とても生真面目な性格の方です。しかし、上司との折り合いが悪くなり退職された経緯があり、その後は不眠の継続と幻聴の悪化を認めています。ご自宅で引きこもりがちになりましたが、医師との関係性は構築できており、何度かお薬の調整を行うことで入院せずに穏やかな生活を送ることができている状態でした。

 当時、入職してから日が浅かった私は先輩ナース同行のもと、斎藤さんのお宅へと訪問させていただきました。ご自宅は非常にきれいにされており、金銭管理、家事など身の回りのことはご自身でされていました。
 初めての訪問で2人で対応させていただくと、やや緊張している様子が伝わってきました。口数がとても少なく、笑顔はありませんでした。斎藤さんはきっちりとお薬を服用できているものの、内科疾患もお持ちのため、ややお薬の数が多い傾向にありました。看護師に相談したいことは「仕事をしたいが決まらない」「薬が多いので管理してほしい」とのことでした。
 訪問時にはご本人の希望で散歩をすることが多かったのですが、ご自身の就職面がなかなかうまくいかないことや幻聴の悪化が続くなかで「訪問看護に来てもらっても仕方がない。もう来なくてもいい」と何度かお話しされていました。そのような状況の中、就労について一緒に考える機会を設けながら、ご本人の心身の状態を心配し、思いを表出しやすい関わりを持てるように努めました。

ご本人が思い描く就労とは

 その後、幻聴が落ち着いてきたときに斎藤さんが履歴書を書いている場面に遭遇しました。やや気まずそうな顔をしていましたが、明らかに見てしまったので率直にお聞きしてみました。斎藤さんは「もう50過ぎなのに、仕事もしていない。人と話をするのは得意じゃないけど、生活保護を抜けて母親の生活を少しでも助けてあげたい」と話されていました。訪問の時はご自身からお話しされることがあまりない方だったのですが、この時から少しずつ思っていることを表出してくれるようになりました。基本的に事後報告なので、ご本人の様子を伺いながらの支援者と一緒になった就職活動とは程遠いものがありましたが、ご本人や私達支援者にとっては大きな一歩でした。

 それから一般就労の障害枠への勤務を行うも、生真面目な性格からお休みをとることができず、お仕事での疲労や不眠が続いているようでした。その後は幻聴音悪化も伴い、お仕事に行けないこともしばしばありました。そういった状況に陥ると会社の人との関係性を気まずく感じてしまい、そのまま就労先に行けなくなってしまうことを繰り返されていました。

 私達の関わりとしてただ単にアドバイスを行うのではなく、ご本人の心身の状態が心配であるためご無理をしてほしくないことをお伝えさせていただきました。比較的ご本人が落ち着いている時にお仕事のお話を伺うようにしていました。
 そうすると、少しずつではありますが変化が現れました。当初は事前の報告が全くない状態でしたが、支援者を頼る機会が出てきたのです。また、ご本人を含めてのカンファレンスの機会を設けることができるようになりました。カンファレンスでは就労意欲や能力の高さはあるものの、対人関係の構築や継続が困難なことが課題としてあがりました。まずは継続できるようにと、ご本人の強いご希望により就労継続支援B型事業所への入所が決定しました。今までの就労先と収入面が大いに異なる為、通所の目的についてはお話ししましたが、笑顔で「大丈夫。」とお返事がありました。

辞めないからこそ得ることが出来た達成感、そして看護師の役割

 当初は満足して通われていましたが、やはり収入面が違いすぎることに嫌気がさすような発言が増えてきました。ややイラつきがあり、「スタッフが何を考えているのかわからない。僕への当たりが強く感じる」などの発言がありました。また、就労継続支援A型事業所への通所についてスタッフに相談することがあったようですが、スタッフの方から現状それは難しいとだけお話があったと怒りの表出がありました。スタッフの方とはそれ以来お話ができておらず、だんだんと通所しているB型事業所全体への不信感に変わっていきました。
 一度スタッフの方とお話をしてみてはどうか、と話す私に「嫌だよ。一人で行くとか怖いもん。何言われるかわからないから」などの発言がありました。私が同行することをお伝えすると少し乗り気になってくれましたが、その際にひとつだけお約束をしました。その約束とは、ご自身の口から説明をしていただき、看護師は補足のみを行うことです。考えながらも少し嫌そうな顔をしていましたが、しぶしぶ承諾されました。

 当日、斎藤さん、事業所の責任者の方、スタッフの方、私の4人でお話をしました。ご本人はやや緊張している様子がありましたが、責任者の方がお話を振ってくださったこともあり、緊張しながらもご自身の意見をしっかりとお話しすることができていました。私は隣に座っていただけです。スタッフの方の対応に誤解があったこともわかり、問題なくお話は終わりました。
 すべてが終わってからはご自身で伝えることができた達成感があり「○○さんがいてくれたから何とか自分の気持ちを伝えることができた」と、看護師が同行したことへの感謝の言葉がありました。その後はB型事業所で一年程就労した後にA型事業所での就労を開始し、現在に至るまで通所を行っています。以前はできていないかった休養ができるようになってきている様子も伺えます。

 関わりを持たせていただいてから2年と少しほどですが、少しずつの積み重ねが大きな変化につながることを実感しました。まだまだ心配な部分はありますが、ご本人の気持ちを尊重しながら寄り添う看護を継続していきたいと思います。


 精神科訪問看護を行っていると、利用者の多くに「相談者がいない」ことに気づきます。それは、せっかくの機会があっても自立を逃してしまっている原因の一つです。相談できる相手が一人でもいればその先の人生が変わりますし、相談者としての役割は、精神科訪問看護を行う際に多くある役割の一つでもあります。
 こんな役割もあるのだと、斎藤さん(仮名)の事例を通じて求職者の皆さまに伝えることができれば幸いです。

この記事を提供しているライター
整形外科、脳外科の病棟や外来勤務後に訪問の道に進み、現在は精神科の訪問看護師として勤務。ご本人と共に考える看護をモットーにしている。
看護師 橋元 裕典
ホウカンジョブ事務局
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