「安心して自宅で過ごせる」こと。 これは、在宅で療養する方にとってもっとも重要なファクターです。訪問看護師ができることは数え切れないほどありますが、その中でもキーとなる要素について、病棟から訪問に移った経験をもとに少しまとめてみたいと思います。

訪問看護で常に意識しておくべきキーワード

 病院勤務しか経験のなかった私が訪問看護という世界に足を踏み入れて最初に驚いたのは「環境の違い」です。病院では点滴をするにしてもすくそばに物品があり、指示さえあればなんの心配もなく実施することができます。しかし、自宅ではそうはいきません。生活スペースでどうすれば邪魔にならないのか、終了・交換のタイミングをどう調整するのかなど、病院では簡単に行えていた点滴が、自宅環境になると考えることや準備することなどが盛りだくさんです。

 常に誰かが気にしている環境でもなく、処置が生活に支障を与えてしまうわけにもいきませんから、訪問看護ではより蜜に利用者本人、家族のADLやQOLを考えて行動することが大切です。この二つは訪問看護においての大きなキーワードです。

安心して自宅で過ごしてもらうためにできること

 前述のとおり、訪問看護では利用者本人、家族のADL・QOLを常に念頭において行動します。ふと病院勤務の頃を振り返ると、ADLやQOLを考えているようで考えていなかったと感じました。もちろん仕事の中で無意識に学習することが結果的に「考えていた」ことになっていたのかもしれませんが、訪問ほど常に意識して行動していたとは言えません。私がずっと考えていたのは自宅で過ごすための看護ではなく「退院するための看護」だったと気付かされました。利用者(患者)本人にとって、退院とはゴールではなくスタートなのだと思います。そのために、情報収集として社会的背景や自宅環境を知ること、そして何よりも思いを表出していただくことがとても大切なことなのだと気づきました。

 病院で過ごすより自宅で過ごしたいと思っている方は多くいらっしゃいます。実際に訪問させていただいた方は要介護5で入退院を繰り返していましたが、やはり奥さんのいる自宅が落ち着くとおっしゃっていました。しかし、本人も奥さんも自宅での生活で不安なことがたくさんあります。その本人、奥さんの不安を軽減し安心して自宅で生活していただくために、私はまず本人と奥さんのそれぞれの思いを傾聴することから始めます。そうすると、こちら側からすれば気にならないようなことでも、本人や家族が気にすることはとても多いというケースがたくさん出てきます。
 患者のためにと思いながら病棟でかけていたいろいろな制限。しかし、訪問看護では病院ほどの制限はかかりません。制限がかからないからこそ利用者本人のこと、家族のことを知っていかなくてはならず、そこでもっとも大切なのは信頼関係だなと思いながら訪問看護の仕事をしています。正直なところ、病院勤務していた時にはそこまでの関係を築く努力をしていなかったと気付かされます。

信頼関係の構築と相手を知ろうとする気持ち

 最初からすべてを知ることは不可能だと思います。安心して訪問看護を受けていただけるように、時間をかけてでも信頼関係を深め相手をよく知っていくこと、相手を知ろうとする気持ちが大切です。
 技術的な面も必要かもしれませんが、心のサポートも必要です。そのために本人、家族が不安に思っていることや、これからできるようになりたいと思っている目標などを聞き、その人に合ったその人のための看護を提供することで、安心して訪問看護を受けていただけるのではないかと思います。

この記事を提供しているライター
総合病院で7年ほど勤務。知り合いの訪問看護事業立ち上げを機に、20代から訪問看護の世界に飛び込む。
看護師 加藤 久美
ホウカンジョブ事務局
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