「看護」の考え方はどうしても急性期が中心に

 病院にもたくさんの機能がありますが、一般に有床の病院で思い浮かべるのは「急性期病院」ではないでしょうか。厚生労働省「平成29年度病床機能報告の結果について(その1)」によると、病院・診療所の病床機能ごとの病床数について、高度急性期、急性期、回復期、慢性期の内訳はそれぞれ13%、47%、12%、28%となっています。

 高度急性期と急性期を合わせて60%です。そこで働く看護師もそれだけ多いわけですし、新卒の看護師の多くは急性期病院に就職することを考えると、急性期を基準に看護を考える流れは自然なものなのでしょう。
 急性期病院から回復期や慢性期、病院以外でも介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)や訪問看護に転職しようとすると、たまに「楽できるよね」「看護のレベルが落ちるよ」なんて話が聞かれることがあります。当然ながらそんなことはないわけですが、急性期畑で育ってきた医療者からみれば少なからずそう見えてしまうという現実があるわけです。

 すべての医療者がそう思っているわけではありませんし、これが悪いとかおかしいとかいう単純な話でもありません。ここで言いたいのは、看護の中心は急性期であるという潜在的な考え方が多くを占めている、そんな現実が今なお根強いということです。これも不思議なことではなく、大多数の看護師が少なからず急性期病院を経験し、現に従事する看護師も急性期が圧倒的に多いわけですから、それは至極当然の成り行きだと考えたほうが自然なのです。確かに急性期は、病状の変化や時間との戦いで忙しいのは間違いありませんからね。

 一方でこういった話もよく聞きます。「自分が看護師を目指して看護学校に入学したときに考えていた『看護師像』って、こんなだったっけ?」
 医療に限らずですが、就職すればその現場のルールや方針、機能、役割などに従って仕事をしなければなりません。当初は患者さんとゆっくり向き合えない急性期の環境に違和感を覚えていても、就職して何年も経つとその状態に慣れてしまいます。自分が思い描いていた「看護」から少しばかり遠ざかっていたとしても、意識しないとそこに気づくことはありません。就業環境に満足できていないケースを除けば、それを意識するときに転職がちらつくことになります。

訪問看護でしか見えない自宅療養者の現実と看護観

 看護観を考える上で、訪問看護の最大のメリットは「自宅で療養している方の現実に向き合うことができる」ということです。これは唯一、訪問看護でしか経験できません。入院中の情報収集や通院してくる患者さんから自宅での生活を聞くことはできますが、それはあくまで患者さんから収集する「情報」です。それに近い特養の看護を考えても、本来の「自宅」とは違うと考えてよいでしょう。
 実際に自宅に訪問してみないと見えない療養者の現実がそこにあります。いくら病院で禁酒や禁煙を指導しても、自宅に帰ればそこは自由な空間です。中にはまた入院前の生活に戻ってしまう方もいます。いくら入院中にリハビリを一生懸命行ったとしても、自宅環境に合わせたリハビリではないので自宅で簡単に転倒してしまうこともあります。病院のように医療体制が整った場所ではありませんから、病院にいれば何でもないことでも対応できず症状が悪化してしまうこともあります。行ってみたら報告とは違って生活環境がめちゃくちゃだった、そんなこともたくさんあります。

 病院で働く看護師ならば、誰しもこんなことを考えたことはあると思います。
 「あの患者さん、自宅に戻ってきちんと生活できているのかな?」
 そう思っても病棟看護師が向かうわけにもいきませんし、ましてやそれを継続的に気にすることのできる環境にもありません。目の前には別の患者さんがあなたを待っていて、そこでの役割をしっかり全うすることが仕事なのですから。

 そう、同じ職種でも置かれた環境によって役割は異なります。自宅での療養を支えるのは訪問看護師の役割で、病院での療養を支えるのは病院の看護師です。2025年に向けた地域生活ケアシステムが少しずつ機能していく中で地域での急性期病院の役割も変化してきていますが、継続的に在宅での看護の役割を担うのは訪問看護師です。

治療を支援するのか、生活を支援するのか

 大きな枠で考えれば、病院の看護師は治療を支援し、訪問看護師は生活を支援する、そういった分け方ができるでしょう。
 すべての看護師さんに訪問看護の現場を経験してもらい看護の幅を広げてほしいのは間違いないのですが、特に患者さんの生活を支えたいという看護観を持ち合わせた看護師さんには、ぜひ訪問への門戸を叩いてほしいと思います。

 訪問看護に従事する看護師さんに共通するのは、生活を支える医療者としての立場にたくさんのやりがいを感じているということです。医療の前には必ず生活があります。その根底部分が支えられていないと医療も何もありません。もちろんこれは、病棟看護師が看護師としてのやりがいを感じていないということではありません。その昔に思い描いていた看護師像を少しでも思い出したとき、それを叶えることのできる場所や環境が訪問看護に多く存在するということです。

 ちなみにここで書かれている内容は、たくさんの看護師を訪問の世界に誘導するためではありません。病院で働いているだけでは分からない、療養者の生活を支える役割としての訪問看護を、これまで以上に認知していただくことにあります。まだまだ足りない訪問看護の認知と理解が進んでいけば、これからの地域医療がもっとより良いものに変化していくのではと思っています。

この記事を提供しているライター
千葉県内訪問看護ステーションの元管理者。訪問看護を含め地域医療・介護・福祉の魅力を伝えるため、ホウカンジョブを運営している。
看護師 田中 良平
ホウカンジョブ事務局
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