訪問看護には「夜勤がない」というメリットを感じている看護師さんは多いです。しかし、訪問看護師になるとオンコール対応が条件で、それがネックだと考える求職者も多いでしょう。昨今話題の「働き方」とも大きく関わるところもありますので、実際にどれくらいの頻度で出動があるのか見てみましょう。
訪問看護師の募集内容を見ても「オンコールあり」としか書かれていないケースがほとんどです。詳しく説明されている求人はほぼゼロです。これは単純に募集要項の中にそれを説明するだけのスペースがないというだけの話です。
求職者からしてみれば、オンコールがどういうもので、実際にどれくらいの頻度で電話が鳴ったり出動したりしているのか事前に知っておきたいところですね。その前に、訪問看護のオンコールがどういう仕組みで成り立っているのかを簡単に説明します。
オンコールとは、訪問(営業)時間外の利用者への対応のために決められた加算の仕組みです。保険請求することができます。介護保険であれば「緊急時訪問看護加算」であり、医療保険であれば「24時間対応体制加算」がそれにあたります。細かい数字は省きますが、これら加算は1ヶ月あたり6,000円程度だと考えてください。電話が鳴っても鳴らなくても、出動があってもなくても、加算として月単位で保険請求することができます。
保険を利用するという前提でいえばあくまで加算ですし、その一部は利用者が負担します。ですから勝手に加算を取ることはできません。時間外の対応が必要な利用者に必要性と緊急連絡方法を説明し、同意を頂いたうえではじめて算定できることになります。
同意をいただき加算が発生する利用者には緊急用電話番号をお伝えするのが一般的です。このあたりのルールは特別に定められているわけではありませんが、考え方として「24時間365日いつでも、利用者から看護スタッフに連絡が繋がる体制を敷いておいてください」ということです。言い換えれば、オンコール当番はどんなときでも電話を受け出動できるようにしておかなければなりません。(※実際のところは後ほど説明します)
電話が鳴ったら即出動という意味ではありません。後述しますが、先のことを考えて看護をしていればおおよそ電話で済んでしまうことが多いです。
緊急時の加算は訪問の有無にかかわらず算定できます。あくまでも「対応できますよ」という条件に付けられているような加算です。ですから、電話では対応できず訪問することになった場合は、訪問した分の保険請求ができるようになっています。事業者がスタッフに手厚いオンコール手当をつけられるのは、一定の加算と訪問時の報酬についてきちんと保険請求できるからです。
これがオンコールの仕組みと全体像です。加算への同意があってはじめてオンコール対応の必要性が生じるわけですから、オンコールというものへの考え方がちょっと変わったかもしれませんね。事業所のすべての電話が転送されてくるわけでもありませんし、何でもかんでも電話が鳴るということでもありません。
ちなみに、事業者はこの加算の仕組みを前提にオンコール手当をそれぞれ自由に定めています。
下の図は、厚生労働省社会保障審議会(2017年7月)の資料引用です。介護保険のみの内容となります。
見る部分は折れ線グラフのほうです。これは訪問看護の利用者を100%とした場合、どれくらいの割合で「緊急時訪問看護加算」の算定者が存在するかの数値になります。事業所ごとの考え方や体制、受け入れ状況によりますが、平均してその事業所の利用者の半分ほどがオンコール対象者になるということです。およそ半数の利用者が「訪問予定外でも必要に応じて看護師が訪問しますよ」という仕組みを利用しているということになります。
すべての利用者が対象ではないとはいえ、まだ現場を目にしていない看護師はこう考えるかもしれません。「もし利用者一人あたり月に1回でも出動があれば…これは身体がもたないよな…」と。緊急時訪問看護加算はオンコール対応が前提ですから、電話だけで考えれば相当の回数が鳴るとイメージしてしまうのではないでしょうか。
たしかにそれでは電話を持つのが怖くて怖くて仕方なくなりますし、もしそのような現状であれば訪問看護師を目指すのも考えものです。しかし実際には、平均で考えればこの数値からイメージするよりもかなり少ない頻度だと考えてください。
以下の表を見てみましょう。平成29年度に実施された「訪問看護のサービス提供の在り方に関する調査研究事業」の資料引用です。
この表を説明するとこうなります。訪問看護ステーションの部分だけみていきましょう。
平成29年7月に行われた調査で、緊急訪問を実施している訪問看護ステーション541事業所から得た回答の結果、月間の緊急訪問数は1回だったと回答したのは55.5%、月間3回までの回答でみると79.9%となっています。5回以上が8.7%ありますが約8割にあたるステーションが3回以内であり、感覚的にいっても多くはないと言えるでしょう。加えてこれは「緊急訪問を実施した場合」の数値ですので、ゼロであった事業所も含めると9割程度は0~3回の訪問であると推測されます。
ちょっと胸をなでおろした方もいるかもしれません。仮に3人でオンコールを回すとすれば、コールは別としても緊急訪問が1回当たるかどうかの割合です。ただし、これはそのステーションがターミナルケアをどれだけ受け入れているかや、看護師の手技(たとえば膀胱留置カテーテルなど)を必要とする利用者がどれだけいるかなどによって変わりますから、あくまで参考数値としてみておくとよいでしょう。
直前で述べたとおり、事業所の受け入れ体制等によってオンコールの回数は変動します。看護師数が多い大型の訪問看護ステーションなら利用者数も多く医療依存度の高い方もそれなりの数を受け入れるでしょうし、人数が少なくたってターミナルケアに積極的な事業所なら件数も増えるでしょう。
一方で、こういった受入状況や環境に関係のないところで、事業所の努力によってコールや出動を減らせることもあります。
単純な例を挙げます。自宅での処置の指導が万全にできていなければ、それだけたくさんの電話が鳴ることになります。電話でも通じなければ出動もあるかもしれません。一方で、一般的な指導だけでなく想定される事象に対する対応マニュアルでも事前に作って置いておけば、緊急を要する場合は別として、何かあっても家庭で対処できますから電話も出動もなくなります。利用者のすべての生活時間を考えれば「たまにしか行かない」のが訪問看護ですから、ナース不在時の事前対応がオンコールの負担を軽くするポイントとなることは言うまでもないでしょう。
訪問看護の仕事探しということで考えれば、事業所がそういった意識で動いているかどうかを面接で確認することで自分自身の負担も減らせることになります。
オンコールの議論は訪問看護への就職にあたって大きなポイントとなる部分です。ただし理解しておいていただきたいのは、その仕組みは訪問看護利用者やその家族にとってとても心強いものなのです。オンコールなんて絶対にやりたくない!と考えるのであればそういった訪問看護ステーションも一定数存在しますが、その考えばかりが先行してしまうと、真に利用者のためになる看護はできなくなるかもしれません。訪問看護の本質を置き去りにしないように注意しましょう。