2019年3月1日、政府が3年ごとに行っている「患者調査」の平成29年版結果が公表されました。内容はe-Statからご覧になれます。(患者調査結果へのリンクはこちら
 精神科訪問看護を行っている訪問看護ステーションは年々増えていますが、その他身体的疾患の利用者への訪問と比べると圧倒的に訪問件数は少ないですし、地域での認知もまだまだ足りていません。患者調査結果を見ながらその重要性を確認していきましょう。

平成29年(2017年)患者調査結果からみる精神疾患患者数とその推移

 下図は、平成8年以降公表されている「患者調査」の精神疾患患者数の推移を独自にまとめてみたものです。患者調査は、病院及び診療所を利用する患者について、その属性、入院・来院時の状況及び傷病名等の実態を明らかにするために厚生労働省が3年ごとに行っている調査です。

精神疾患総患者数推移

精神疾患総患者数推移

注意点:
1. 厚生労働省が出す参考資料等と同じく、「精神及び行動の障害」に分類されるものに加え、てんかん・アルツハイマー病を含んでいます。
2. 総患者数は疾患中分類別の数値を合計したものですので、厚生労働省が出す参考資料等とは集計方法の違いで多少の誤差が生じている場合があります。
3. 平成23年の結果は宮城県の一部と福島県を除いた数値になります。

 

 いちばんわかりやすい結果として、平成29年の調査でも前回を上回る患者数となっていることが挙げられます。26.4万人(6.4%)の増加で400万人を超えました。この422万9千人という患者数は、平成29年の総人口推計である1億2670万6千人の3.3%にあたる数値です。およそ30人に1人が精神疾患をもっていることになります。イメージとしては一般的な路線バスの座席数が30席前後ですから、全員着席したバスの中に一人の患者が存在するという割合は「多い」と感じるのではないでしょうか。

 そしてもっとも重要なのは、指標としての数値だけではなく「変化なく増えているという事実」です。赤い破線のラインは平成8年と平成29年を単純に結んだものです。東日本大震災の影響で一部地域の除外がある平成23年は考慮しないとして、同程度の増加を辿ってきていることがわかります。
 この数字が単純な増加なのか、隠れていた数字が顕在化したのかは把握できません。前者であれば引き続いての大きな社会問題ですし、後者であれば通院に向けての社会の取り組みが評価されたとしても、増加を否定できる材料にはならないでしょう。今もなお「引きこもり」や通院しない潜在患者が存在することを考えれば、数字として表れていないトータルの「患者数」はかなり多いのではないでしょうか。

疾患別の患者数とその推移。政策は機能しているのか?

 下図は、前出の患者数推移を疾患別に分けたものです。

精神疾患総患者数推移

 前回調査と比べて増加しているのが以下の4分類です。

  • アルツハイマー病 … +5.2%
  • 神経症性障害,ストレス関連障害及び身体表現性障害 … +15.1%
  • 気分[感情]障害(躁うつ病を含む) … +14.3%
  • 統合失調症,統合失調症型障害及び妄想性障害 … +2.5%

 注目したいのは、「神経症性障害,ストレス関連障害及び身体表現性障害」と「気分[感情]障害(躁うつ病を含む)」の大きな増加です。平成23年の調査から平成26年の調査にかけても大きな増加を示しています。
 減少したものも含め、この2分類以外については内因性や身体因性の要素が強いものといえるでしょう。一方で増加した2分類に特徴的なのは、心因性の要素が強いというところでしょうか。つまり、ほぼ一定の割合で存在する疾患や症状ではなく、社会背景や環境によって増えも減りもし、なおかつその幅も一定にはならない群であるということです。

 増えているのはいわゆる「こころの病気」がほとんどです。
 働き方をはじめ、特に企業の取り組みとしてのメンタルヘルス対策はここ数年で注目されてきました。政策としては、2015年12月にストレスチェック制度が義務化され、労働者の精神衛生に配慮した対策も企業単位で行われています。もちろん会社だけではなく、学校や地域社会でも取り上げられ対策が進んでいることはニュース等で実感できるところでしょう。

 ただ、学者でも政治家でも医師でもない個人が発するには抵抗もあるのですが、数字だけでみればこういった政策は奏功していないと言えるのではないでしょうか。全くのゼロだと言いたいわけではないのですが、大きな予算をかけて取り組んでいるのですから、それなりの効果が数字に表れるべきなのではという考えです。制度ありきではなく、もっと多くの、形だけではない本当の意味での支援者もまだまだ必要でしょう。
 もちろん、そういった取り組みが結果として「ここまでの伸びに抑えられている」のかもしれません。こればかりは何が事実なのか分析することは難しいでしょう。しかしながら、政策や社会の支援による自殺者数の減少が2010年頃からはっきりと数字に表れたように、増加しているストレス関連障害や気分障害もまた、数字として減少もしくは増加率の低下につながるような政策的な取り組みを求めていきたいところです。こころの病気は、理解者・協力者・擁護者の関わり方次第で回復と社会復帰が期待できるからです。

出口の入口としての精神科訪問看護の存在

 精神疾患をもつ方々の社会参加やバリアフリー化は、ICF(国際生活機能分類)の生活機能モデルに基づく精神保健福祉のさまざまな形により身近になってきています。精神病床の在院日数の減少もそれを助けているでしょう。
 しかし、数字だけでみれば患者数そのものは増え続けているわけです。増加している2つの分類は、発症前の予防もとても重要ではあるのですが、発症してしまった後の治療と社会復帰によって増加を食い止めることも可能です。

 狭い範囲ですし統計があるわけではありません。それでも実際に看護師として精神科訪問看護を行ってみて、肌感覚として効果を感じていたのも事実です。
 引きこもりがちで人との付き合いが難しかった方が趣味を見つけて外出できるようになった。うつの状態から週2日でもアルバイトで仕事復帰できるようになった。正面から相談できる相手が見つかってストレスをコントロールできるようになった。いわゆる疾患名のついた「患者」しか訪問できないのは制度上どうしようもないのですが、個対個の関わりによる小さなプラス変化の積み重ねが、「患者」という枠から外れる未来を作る入口になり得るのだと感じていました。物理的にではなく、精神的に孤独な環境にいる方がとても多いのです。

 精神科訪問看護によって顕著に数字に表れるような成果を出せるとは思っていません。1対1という向き合い方は、その効果は大きいものではあるにせよ効率的とは言えませんし、社会資源としての認知もリソースそのものもまだまだ足りていません。
 その存在が資源として広く認知され、その担い手の数が増えていったとき、数字として何か変化が起きるのではと思っています。少なくともそういったやりがいのある職種であることは間違いありませんから、精神科訪問看護の担い手がますます増えていくことに期待したいです。

この記事を提供しているライター
千葉県内訪問看護ステーションの元管理者。訪問看護を含め地域医療・介護・福祉の魅力を伝えるため、ホウカンジョブを運営している。
看護師 田中 良平
ホウカンジョブ事務局
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