おそらく、この記事をご覧になっている方の多くは、看護師に限らず理学療法士などのセラピストを含め訪問看護への就職や転職に興味を持っている方だと思います。何らかのきっかけで訪問看護ステーションを仕事の場に選ぼうと思った時、はたして自分自身は訪問看護に向いているのかどうか気になるところでしょう。
前提として、技術的にどうかという話はここでは触れません。
看護にしてもリハビリにしても、そもそも技術は経験して学ぶものです。その場がどこであろうと学ぶことで得るものですし、経験したことのない事象に遭遇したら、そこで学習して経験してスキルを得ていくことに変わりありません。今はネットも含めて学習リソースがたくさんありますから、訪問だからと過去の経験値で線を引くことは大きな機会損失になります。そこから先に進むことができなくなってしまうのです。
もちろん、臨床経験が多ければ役立つことはたくさんあるでしょう。しかしマニュアル通りにいかないのはどこで働いても同じなわけで、10年の臨床経験があるから訪問看護でうまくいくかといえば決してそんなこともありません。
環境も全く違いますし、看る対象も入院中の方ではなく自宅で療養生活を送っている方々になりますから、逆に「この利用者様には何をすればいいの?」と戸惑うベテラン看護師さん(技術的に)もいたりします。これは、多くの方が聞いたことがあるかもしれない「ベテランじゃないと訪問看護師になれない」という都市伝説的、神話的なエピソードと相対することですから面白いですね。
技術があれば応用する、なければ学ぶという、ごくごく当たり前の話になります。その証拠に、近年では新卒看護師を受け入れている訪問看護ステーションも増えてきています。ですから「向き不向き」で技術的な話をすることは避けておきたいと思います。
いずれにしても教育体制が整っているかどうかは重要ですので、面接時に話を聞いて自身で見極めることが重要です。20年選手だって教育なく現場に放り出されれば何もできませんから…。
これは当然といえば当然ですね。時間になってもなかなかナースステーションに戻ってこないような看護師さんは適任かもしれません。それは半分冗談だとしても、1対1での長く連続した時間を使えるのが訪問看護の良いところですから、少しでもそこに魅力を感じるならば訪問への扉を叩いてみるとよいでしょう。
看護の対象者が病院にいるのか自宅にいるのかの違いはとても大きいです。医療のパターナリズムは時代と共に縮小してきていると思われますが、病院にいればその環境の重圧からモノを言えない患者さんはまだまだ多く存在します。
自宅は病院とは違って自分の城です。言いたいことを言える環境ですから、訪問看護師はそれを一つひとつ受け入れながら対処する能力が必要です。利用者に安心を提供しやすいのは聴き上手な専門職のほうでしょう。
近年の在院日数の短縮により、こと急性期病院では同じ患者さんを看護する日数も当然短くなっています。対して在宅は住まいですので、利用する事業所の変更がない限りは同じ利用者さんと長いお付き合いになることが多いです。
決して病院がそうであると言うわけではないのですが、一般に短期間のお付き合いならその場を切り抜ける術(すべ)はたくさんあります。しかし長いお付き合いになればなるほど、そういった短絡的な術は後で不信を生みかねません。正直に人付き合いができる人が長期の関係性を結びやすいことは言うまでもないでしょう。
横のつながりとしての多職種連携は分業制であると言えます。しかし、訪問看護そのものはナースもしくはセラピストの職種単独で行います。病院のように1事業体の中で分業しているわけではありません。厳密には主治医の指示に基づき療養を支援するとはいえ、実際の現場ではイレギュラーなことも多数起こります。
「これは看護の仕事じゃないから」と無意味なプライドを持つ人は在宅向きではありません。自分の職域ではなく、まずは目の前の利用者様を中心に考えることが求められます。
ただ与えられた仕事をする人よりも、どうすれば利用者の状態やとり巻く環境が良くなるのか、どうすれば生活がより良くなるのかなどを考えながら動ける人のほうが向いています。
病棟よりも個別性が重視されますので、ケアやリハビリの原則があったとしても工夫が求められる場面が多くなるからです。それにはもちろん知識の幅も必要ですが、知識の引き出しがなかったとしても、まずは考えてみるという行動が取れることが大切になってきます。
病院と訪問とでは働く環境がまったく異なります。それゆえマナー一つとっても在宅ならではのことがたくさんあります。例えば家に入るときのマナーは?初めてお会いする方への名刺の渡し方は?
ただし、こういったマナーそのものを事前に知っているかどうかは大した問題ではありません。覚えればいいだけです。マナーを守ることを「大切だと捉えているか」が重要です。利用者様の多くがたくさんの社会経験を踏まれている方々ですし、ホームではなくアウェイで仕事をするという立場を忘れず、マナーを意識して利用者様との正しい関係性を築いていきましょう。
お節介という言葉はマイナスの表現としてしばしば使われますが、ここでは良い意味で捉えてください。お節介なくらいのほうが訪問看護向きかもしれません。在宅の環境では常にその場に専門職がいるわけではありませんから、いない時のリスク因子を排除しておくことが大切で、そのためにお節介なくらい準備や対応をしておけば利用者様も安心でしょう。
自分が当てはまるものはいくつありましたか?
上記の「向いている人」の内容の逆が「向いていない人」であるとは限りません。ただし、ここに書かれていることをまったく理解できない人は「向いていない人」かもしれませんね。
畑が違えば自分の行動も変わるはずですし変える必要がありますから、理解さえできていれば新しい職場でも十分にフィットさせることができるでしょう。ここで書かれていることは何も特別なことではないと思います。
とはいっても、適職かどうかを判断していただく指標として並べたものではありませんから、こういった素養が大切なのだとざっくり感じてもらえれば十分だと思っています。それよりも、技術の程度や向き不向きではなく、どうして訪問看護で働きたいと思っているのかを大切にして新しい環境に挑戦してみてください。