個人的な経験でいうと、脳血管疾患の後遺症をもった利用者が非常に多いと感じています。もちろん訪問看護ステーションの特性によって利用者の特徴も変わってきますし、実際に「脳血管疾患が多い」と考えていたのは、それなりにリハビリスタッフの数を揃えていたからだという理由もあります。医療度の高い利用者を多く抱えるステーションなら悪性新生物や呼吸器疾患が多いでしょうし、精神科も行なっているステーションならその割合も増えるでしょう。
全国訪問看護事業協会が行った「医療ニーズの高い療養者の在宅生活を支援する訪問看護ステーションの在り方に関するシステム開発及び調査研究事業」という平成27年度の調査研究があります。その中に67事業所1,630名分の主たる疾病をまとめたものがあります。
どの疾病が突出して多いというわけでもないのですが、利用者の傾向はこれである程度つかめるのではないでしょうか。ただしこれは「主たる疾病」ですので、高血圧と糖尿病を持ち併せながら認知症も…というように、たくさんの疾患を合併している利用者様も多くみられます。ゆえに訪問看護のニーズが高くなりやすいのだといえるでしょう。
面接でも「どんな疾患の方が多いですか?」とほぼ100%の確率で聞かれるのですが、そんな時には「疾患はさまざま。疾患でみるより、状態や介護度で考えたほうが訪問看護はうまくいきますよ」と答えていました。
高齢者でいえば訪問看護の多くは介護保険と密接にリンクしていますから、介護度を踏まえたうえで看護に当たるべきということです。つまり、ADLがどれくらい維持できているのか、どんなことを望んでいて、それができるようになるにはどうすればいいかなど生活と結びつけながら看護を考えると、本来の訪問看護の存在意義が明確になってくるわけです。「疾患で見ないで症状で見なさい」とよく言われることとほぼ同義ですね。
とはいえ、利用者の抱えている疾患をきちんと把握して、臨床で関わっていなかった疾患であれば勉強して看護にあたることは当然のことです。これは訪問に限らずどんな所で働く場合でも不変でしょう。
でもそれは言い換えれば、訪問看護に携わってから勉強しても遅くはないんですよ、ということでもあります。訪問看護にどんな疾患の方が多いのか気になるところだとは思いますが、「生活面を支える」という意識に重きを置いていれば入職してからでもカバーできますので、知識や技術のことについてはあまり考えずに飛び込んでもらえればいいと思っています。
訪問看護の「医療処置ランキング」なるものは見当たりませんでした。
前項のグラフと同じ全国訪問看護事業協会の資料「訪問看護の質の確保と安全なサービス提供に関する調査研究事業(平成25年度)」に、「特別な医療処置を必要とする利用者の受入状況」というデータがありました。データとしては古いですが、訪問看護の役割を考えれば現在も大きくずれてはいないと考えます。これは処置の多い順ではなく、あくまでも『どの処置に対応できるか』をまとめたもので、それぞれの処置についてどのくらいの割合の訪問看護ステーションが受け入れ可能なのかを示すものです。
経管栄養、膀胱留置カテーテル、HOT、吸引、点滴は90%を超えていますね。この数字は実際の処置の多い少ないとは関係ありませんが、訪問看護師が在宅で処置を行う割合と似たり寄ったりです。HOTと気管カニューレ以下の処置を除けば、おそらく臨床で少なからず扱ったことがあるものばかりでしょう。
大学病院などでは安全面を考え看護師にバルーン交換(男性患者)やサーフロー挿入をやらせないという話もよく聞きます。もしくは何年間か勤めて院内資格を取ってからというケースもあるでしょう。実際に、10年目の看護師でも訪問看護で初めて男性利用者のバルーン交換を行ったということもありました。しかし、そこが病院であろうが在宅であろうが、誰しもどこかのタイミングで「初めて」はあるものです。さすがに初めて行うのに「一人でやってきて」という話にはなりませんので、こういった処置関係も訪問看護に入ってから実績を積み上げればよいと考えて差し支えありません。
※関連協会等がガイドラインを定めている手技もあります。
ちなみに、上記には入っていませんが、浣腸や摘便はけっこう頻繁にあるかもしれません。逆に採血などは圧倒的に減ります。採血が苦手で夜勤は大嫌いなんて看護師にとっては、訪問看護が天職だったりするかもしれませんね。
疾患にしても医療処置についても、訪問の世界に入る前からそんなに気にする必要はありません。どうしても気になってしまうことかもしれませんが、在宅だからこそ新しく学ぶことは他にもたくさんありますし、同じ処置でも病棟と在宅で勝手が違うこともたくさんありますから、知識や技術以上にチャレンジ精神を持っている人のほうが上手くいくかもしれませんね。