かなりチャレンジングな記事タイトルに思わずクリックしてしまった求職者の皆さまや、中には人材紹介会社の方もいらっしゃるのではと思います。念のためひとこと申し上げておいたほうが良いかもしれません。
この記事は、医療職の有料職業紹介事業を否定したいがために書くものではなく、求職者を扇動し選択の自由を奪うために書くものでもなく、ましてやホウカンジョブをステマ (ステルスマーケティング) 的に売り込むための記事でもありません。現在の看護職の採用事情を客観的に見ている立場として、客観的事実をもとに個人的な考えを述べているものとして解釈してください。
もちろんすべての有料職業紹介事業者を一緒くたにして書いているわけでもありませんが、どの事業者がどうだと特定する記事でもありませんので、そのあたりは注意して書いていきたいと思います。
さて、本題に入ります。
有料職業事業の根拠法は「職業安定法」です。厚生労働大臣の認可を受けて運営されています。
「第四条 この法律において「職業紹介」とは、求人及び求職の申込みを受け、求人者と求職者との間における雇用関係の成立をあつせんすることをいう」
これの有料版が有料職業紹介です。これは一般にはあまり聞かれない呼称で、聞き慣れているのは「紹介会社」のほうだと思います。有料とは、求人側から紹介会社に報酬が入る仕組みだと理解してください。ご紹介、エージェント、お手伝い、転職支援などというキーワードがあれば、それはほぼ間違いなく間に一社介在する有料職業紹介です。
紹介会社は、病院や訪問看護ステーションなどから「こんな人材を紹介してください」という依頼をもらい、求職者から「こんな仕事を探してください」と登録を受け付けます。一般的には求職者から手数料をもらうことはありません。
それぞれのデータベースから人材紹介会社が人と仕事をマッチングし、面接の調整を行い、その結果雇用契約が結ばれることになると紹介会社が求人側に紹介手数料を請求します。昔は年収の30%程度が主流でしたが、2019年現在は20%~25%程度で落ち着いているようです。年収400万円~500万円を想定して雇用契約が成立する場合、およそ80万円~125万円が紹介手数料として紹介会社に渡ることになります。決して安くはない数字ですね。
ちなみに、平成28年に看護職員の採用で医療機関から紹介会社に支払われた紹介手数料の総額は、じつに319億円にのぼります。(職業紹介事業報告書の集計結果・厚生労働省)
額面だけみれば「高い!高すぎる!」と感じる方が大半だと思います。しかしこれが業界の標準で、こと売り手市場の看護師転職であれば、わざわざ手数料を下げて売り込む会社もそうありません。どんなビジネスでも「標準」はあるわけで、家電製品でもホテルの宿泊でもおおよそ「相場」というものが存在します。
その相場のもとになるのは原価です。通販が実店舗より安いのは、お店の家賃や人件費が抑えられるからで、職業紹介も同じように経費というものが存在します。
ちょっと経費について考えてみましょう。
自宅で開業している紹介会社もありますが、社員がいれば事務所家賃も掛かります。それなりに大きな会社であればそれなりの事務所を構えていますよね。それから人件費です。病院などのお客様とやりとりする営業社員はそこそこ必要ですし、求職者と求人者をマッチングするためのコーディネーター(キャリアパートナーなどと呼ばれたりする)も必要です。サイトを運営する費用や通信費もかかりますが、設備維持のための費用はそこまで大きくかからないビジネスモデルともいえます。
問題は広告費です。看護師の紹介会社と聞けば、おそらく2社や3社は誰でも思い浮かぶでしょう。それくらいテレビCMやインターネットのバナー広告で頻繁に見かけるはずです。それだけで、かなりの広告費がかかっていることは容易に想像がつきますね。
私はテレビの広告費について詳しくはないのですが、調べてみると制作費を除いて地方ローカル局だと1本数万円、東京キー局だと1本70万円くらいはかかるようです。また、例えば「看護師 転職」と検索して出てきた検索結果画面の広告枠については、1クリックされると数百円から場合によっては3,000円ほど掛かります。まったく関係のない無料職業紹介の「ナースセンター」で検索しても紹介会社の広告が出てきますから、ちょっとこのあたりは下品だなと感じますが…。
上記だけでも広告費にかなりの投資がされているとわかると思います。それだけの広告費をかけて売り手市場の看護師を集め登録してもらい、病院や訪問看護など医療施設に紹介することでプラスに転じることができるビジネスモデルというわけです。言葉を選ばず批判覚悟で言うと、求職者集め(魅力的な条件提示による転職への誘導含む)でそれだけの膨大な広告費をかけ、商品としての看護師を売り、そのツケとして医療機関に高い手数料が回ってきているということになります。これは正直、悪循環ともいえるでしょう。
しかも広告費はそれだけではありません。なんとも恐ろしい広告手法が存在しているのです。
アフィリエイトという言葉を聞いたことがあるでしょうか。少しでも副業・複業に興味をもったことのある方なら、なんとなく聞いたことがあるかもしれません。
広告手法のひとつとして「アフィリエイト広告」というものがあります。これは、広告主(ここでいう紹介会社)がメディア運営者(一般ブロガー含む)に広告掲載をお願いして広告バナー素材などを提供するのですが、そのメディアを経由して求職者登録があるとメディアに対して報酬が発生するという仕組みです。あなたが看護師転職に関するブログなどを読んで、そこにある「〇〇(紹介会社)への登録はこちら」などのボタンやバナーをクリックして紹介会社のサイトに飛び、そこで会員登録するとブログの運営者が報酬を得られるという仕組みになります。
アフィリエイトシステムについてはもっと細かく説明しなくてはならないのですが、ケースとして、あなたが紹介会社に関する何らかの記事を読んでその流れでどこかの紹介会社に登録すると、その記事を書いた人に広告料として紹介会社から報酬が付与されているかもしれないということです。
そして、その報酬額にまた驚愕することでしょう。
看護師募集に関連する同じような広告案件が、私が確認した範囲でも14件ほどありました。6,000~20,000円の範囲で、ほとんどが15,000円以上の報酬設定です。すべてを見るにはこちらから。
想像してみてください。看護の現場も知らない広告収入目当てのブロガーが紹介会社に関する記事を書き、そこを経由してあなたが登録することで20,000円の報酬が流れている。看護の転職案件を検索して紹介会社のおすすめ記事ばかり出てくるのは、このアフィリエイトシステムの存在があるからなのです。
当然ながら広告主にも責任が求められ、広告が掲載されている媒体のチェックもしているはずです。違反がないかどうか、事実と異なる記載がないかどうか確認することは当然なのですが、そもそも自分が紹介会社を使って転職したわけでもないのにさもそうあるかのように記載したり、不要に求職者を煽ってみたり、根拠もなく紹介会社ランキングを掲載したりなど、ネット畑は雑草だらけで荒れ果てているような状態です。うまくいけば高い報酬を得られる可能性がありますから、ルールもはっきり知らない素人ブロガーも含めたメディア運営者がたくさん集まってくるというわけです。
アフィリエイト広告システムというのは、仕組みとしてはとても秀逸なものです。ただ、高い紹介手数料の一部がこういった現場を知らない広告メディアに流れていると考えると、求人側としてはたまったものじゃないでしょう。
ただし一番の問題は、こういった広告費に紐づく高額ともいえる紹介手数料ではなく、その原資がどこにあるのかということです。
看護師の給与はどこから支払われるのでしょうか。それは病院や訪問看護ステーションといった事業者(雇用主)からですね。同様に、機器や備品、採用経費も医療機関が経費として計上します。
では、その給与や経費はそもそもどこから支払われているのでしょうか。
そう、その7割~9割は、もとを辿れば皆さんをはじめ国民が支払っている医療保険や介護保険、税金、国の借金などです。これらが医療費として医療機関から請求されます。
一般の企業も助成金や補助金などのケースで国の財源を使うことがありますから一方的に批判はできませんし、じゃあ高額な医療機器メーカーはどうなんだとう議論もあります。ですから紹介会社ばかりをターゲットにすることもできませんし、合法的に法律に基づいてビジネスをしているのですから、私がここで批判する理由も全くありません。
しかしながら、こういったお金の流れを辿っていったときに、看護師一人を採用するのに100万円もかかるというのはいささか不健全な感じがします。これは個人の意見です。きれいな言葉を選ばず言えば、紹介会社にとっての商品は「人」です。医療機関の収入の7割~9割は国民が払う保険や税金で、それが「人」の紹介に使われ、その先にいる一般ブロガー(毎月100万円以上稼ぐ人もいます)にまでも流れています。
「いやいや、だって募集をしたって集まらないでしょ?」という現実はあるのですが、その現実を作っているのも紹介会社が求職者集めに使うメディアであったりするわけですね。アフィリエイトの仕組みがありますからネット検索すればほぼ紹介会社に辿り着きますし、そこには魅力的な話がたくさん掲載されています。人件費はともかく、紹介料の中に莫大な広告費が含まれていることにしっくりこない医療機関はたくさんいることでしょう。
それから、求職者が何も知らなければ、ほぼすべての紹介会社は「あなたを紹介することで医療機関から紹介料をいただいています」と説明することもありません。入職してから「え?そんなこと知らなかった。100万円も?」という話は山ほど聞いています。不健全だと感じる理由はこのあたりにもあります。
また、契約で任意に定められた報酬返戻期間(3ヶ月や6ヶ月以内で早期退職した場合に何割かバックする仕組み)が過ぎれば「現在の職場はどうですか?」などと登録者に転職を促す機会を探ってくる紹介会社もあります。全国的な統計がないので正確なところはわかりませんが、ヒアリングをする限りは紹介会社経由の看護師のほうが早期退職しやすいとの声もよく聞きます。紹介ひとつとっても、そこに会社と紹介料(もちろん紹介先によって異なる)が介在すれば、正しい指南ができないという可能性も捨てきれません。
このあたりは、平成30年1月に施行された改正職業安定法のその後や、それに関わる今後の議論をみていく必要はあるでしょう。
あらためて書きますが、この記事は紹介会社(有料職業紹介事業者)を否定したり貶めるために書くものでもなく、ホウカンジョブに誘導したいがために書くものでもありません。ホウカンジョブもわずかばかりですが求人掲載費をいただいています。金額の大小にかかわらず、その原資は保険や税金です。
現実問題として考えれば、紹介会社からの転職支援がないと現場が回らなくなっていることも事実ですし、有料職業紹介のシステムを重宝している医療機関もたくさん存在します。なによりきちんと法律に基づいたシステムですから。
もっとも重要なのは「看護師(を含めた医療従事者)がもっと社会の仕組みを勉強するべき」というところに落ち着きます。
専門職ですからどうしても医療の枠の中に収まってしまいがちですし、一般に「看護師は社会常識が足りない」とよく言われてしまいます。訪問看護の世界でも、入職後にまずいちばんにマナーの教育から始まるのですが、名刺交換の仕方や靴の揃え方、敬語の使い方を知らない看護師はたくさんいます。もちろんすべての看護師がそうだというわけではないのですが、社会の常識が不足していると言われても弁護できないことがたくさんあります。(補足:訪問看護で働くと、病院では学べないことが嫌でも学べます)
その中の一つとして、自分自身が転職する際にどういう仕組みでコトが回っているのか、ちょっと勉強して考えてみてほしいなと思っています。無料で仕事の情報提供や紹介をしてくれる神様みたいな会社はいないことに、ちょっと気づいてもらうくらいは求めたいところです。そのうえで、紹介会社に登録するのか、求人サイトを探すのか、あるいは医療機関のホームページを直接探してみるのか、自分の職業選択を考えてみる必要があると思っています。
いろんな事情や背後関係を考えれば、個人としてはタイトルの通り、看護師が紹介会社からの紹介を受けるべきではないと思っています。その理由は書かれている通りです。ただし、もし求人者・求職者にとって望ましい結果が得られるなら、上手に利用していくのもナシではありません。利用するのであれば少なくとも、
求職者に仕事をあっせんするのですから、このあたりはきちんと対応してくれる紹介会社を選択するべきです。もし「紹介」という手段にこだわりたいのであれば、各都道府県の看護協会が運営しているナースセンターで無料職業紹介も行っています。
補足しておきますが、私自身が訪問看護ステーションへの転職の際に紹介会社を利用しています。採用する側になってその背景や事情を知ったのですから偉そうに言える立場ではないのですが、この記事がより良い転職を考えるためのわずかな一助にでもつながれば幸いだと思っています。