指定難病のALS、利用者様は医師です

 千葉県八千代市にあります「訪問看護ステーション スマイルリンク」看護師の岩崎です。看護師の皆様に訪問看護の現場を知っていただくため、今回はご本人に同意をいただき、訪問看護についてご紹介いたします。

 ナースの皆様はご存知だと思いますが、ALS(筋萎縮性側索硬化症)とは神経の変性により筋萎縮をきたす疾患で指定難病とされています。
 訪問先の利用者様は人工呼吸器を使用しており、ナースは気管内吸引などの医療的支援はもちろんのこと、できるだけ気持ちよく生活できるよう洗髪や清拭などの清潔ケアほか身の回りのお世話も行っています。会話は具体的なものになると奥様を経由する形になるのですが、看護師から会話を投げかけて目の動きや表情で返していただけるので、ケアに困ることはほとんどありません。

 病棟でも同様に医療処置や清潔ケアは行うわけですが、訪問看護が病棟看護と異なるのはその環境です。ご自宅での看護になるため病院のように完璧な医療設備は整えることができませんし、すぐに医師が駆けつけられる環境でもありません。常にそばでケアできるわけではないので先を考えた看護も必要です。次回の訪問までにどんなことが想定されるのかを考えてケアや環境整備を行う必要がありますから、十分な観察と利用者様との会話を行い、安心して療養生活を送れるようにしてから訪問先を後にすることになります。

 じつは訪問先の利用者様は訪問診療医として活躍していた医師です。奥様はもともと現場でバリバリ活躍していた看護師でもあります。医療についての大ベテランですから私自身も普段以上に緊張するのですが、逆にいつも優しく見守っていただきありがたく思っています。医師として自分自身が抱える難病に向き合っている姿も印象的で、私の方が勇気をいただいているのかもしれません。

訪問看護は他職種やご家族との連携が大切です

 利用者様のほとんどのケースにおいて主たる介護者・看護者はそのご家族です。看護師が訪問するのは週にたった数時間ずつですから、それ以外の時間はすべてご家族が対応していることになります。また、ご家族は私たちの知らないたくさんの情報を教えてくださる心強いパートナーです。ご本人の大きな支えであり、どのご家庭にお邪魔しても本当に頭が下がります。

 利用者様の普段の状態をいちばんよく知っているご家族からの情報収集はもちろん、困っていることや気になっていることはないか、日常的なケアはうまくいっているか、機器の不具合はなかったかなど、言ってみれば訪問看護師はご家族の右腕のような存在になる必要もあります。

 また、ご家族自身の様子も気にかけていくことが大切です。元気そうに見えても気を張っているだけかもしれません。ご家族が倒れでもしたら在宅での療養生活も成り立たなくなる可能性が出てきますから、特に医療職である私たち訪問看護師はご家族も含めたサポートをしていく必要があります。

 こちらで記事にしたいとお話し、改めて奥様に訪問看護師の存在をお聞きしてみました。
 「いくら私に看護の知識があったとしても、毎日のことなのでどうしても妥協的になってしまうこともあります。でも看護師さんたちが来てくれることで自分の振り返りにもなるし学びにもなるし、主人も安心できています。そう、安心感をもらっているのが一番ですね」
 そう感じていただけていることはありがたいですし、お話を伺うことができた事でご家族との連携の大切さを改めて感じました。

 ご家族だけではなく、在宅では多職種連携もとても大切な部分です。こちらの利用者様のお宅では、看護師と介護職が同じ時間に訪問することで清潔ケアをスムーズかつ入念に行うことができますし、顔を合わせて情報共有できる意味もとても大きいです。
 もちろん介護保険だけの利用者様だと時間が重なることはないのですが、ケアマネージャーの方が中心となって連絡ノートなどでしっかりとシェアできる体制を整えたりもしています。病院のように一つの施設内で横の連携が取れる仕組みではありませんから、これもまた訪問ならではの特色だと思います。他職種からもたくさんのことを教えていただけるのでとても勉強になります。

太田守武先生についてご紹介させていただきます

 こちらでの記事はいろいろな経緯から書いてみることになったのですが、その理由の一つは「この利用者様だったから」ということにあります。発端は事業所ホームページのリニューアルで、訪問看護の現場を紹介するページの取材として撮影をご快諾いただいたことからでした。
 後日、撮影のためにカメラマンも入り取材をさせていただきました。その時に、私が訪問看護の現場紹介記事を書こうと思っているとお話したところ、「訪問の現場を知ってもらうことは大切だからここでの訪問の様子を書くといい。写真も名前も出していいですよ」と仰っていただき、逆に私の背中を押していただいてしまいました。

 こちらの利用者様がそう仰るのには理由があります。ご本人にご了承をいただいたのでご紹介させていただきます。

 太田守武先生です。医療関係者でしたらご存知の方も多いと思います。

 太田先生は訪問診療医としてご活躍されていた中、2011年にALSを発症しました。きっとたくさんの苦悩もあったのだと思いますが、NPO法人 Smile & Hopeを立ち上げ、現在は医師でありALS患者でもある立場から精力的にさまざまな活動をされています。東北や熊本など被災地での心のケア、無料の医療相談、独自に開発した難病患者のコミュニケーション方法「Wアイクロストーク(YouTubeでも検索できます)」の普及にも取り組んでいらっしゃいます。この春には、ご自身の体験から医療と介護を融合させた訪問介護を提供したいとの強い想いで訪問介護事業所「かぼすケア」も立ち上げられます。

 はたして私が同じ状態になったときに、ここまで前向きに自分の病気と向き合い、外に目を向け、ひとのためにという想いで精力的に活動できるのかと考えてしまいます。きっとその根幹には医師としての社会的使命があって、今のご自身だからこそできることを発信したり行動という形に起こすことで、医師として、個人としての社会的使命を果たされているのだなと感じます。

 でも、もちろん太田先生だけが特別なわけではなく、どこへ訪問に行っても在宅看護はこういった生活や生き方、考え方などに触れる機会があります。私たちにとって人生の先輩方からたくさんのことを教えていただいているのだと感じます。

 太田先生のブログやフェイスブックを紹介したいと申し出たら快くご了承いただきましたので、配信元のホウカンジョブにも目的を確認した上で掲載させていただきます。

フェイスブック(太田守武):
https://www.facebook.com/moritake.ota.9

アメブロ:
https://ameblo.jp/alsbj/

 最後に、もし訪問看護に興味のある看護師やセラピストの方がこちらを読んでいらっしゃいましたら、ぜひ訪問の世界へ飛び込んでいただきたいと思っています。病院の中で働くのも大切な仕事ですが、外に飛び出してみることで様々な出会いや多くの学びがあります。
 どの地域でも、地域を支える訪問看護師は貴重な存在です。きっと活躍の場が得られると思います。

この記事を提供しているライター
訪問看護ステーション スマイルリンク 八千代事業所の看護師。たくさんの利用者様と関われる訪問看護に大きなやりがいを感じています。
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